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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)6820号 判決 1990年7月20日

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告ら各自に対し、四三八万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告勝和機工株式会社(以下「原告勝和機工」という。)に対し、一三八七万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  (一)原告ウィンドサーフィンインターナショナルインコーポレイテッド(以下「原告ウィンドサーフィン」という。)は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有していた。

特許番号 第六三〇三五二号

発明の名称 風力推進装置

出願日 昭和四四年三月一一日

公告日 同四六年五月三一日

登録日 同四七年一月一一日

存続期間満了の日 同六一年五月三一日

(二) 原告勝和機工は、本件特許権について、原告ウィンドサーフィンから、次のとおり、範囲を日本国全域とする独占的通常実施権の許諾ないし専用実施権の設定を受けていた。

(1) 昭和四九年八月二〇日から同五六年三月二七日まで独占的通常実施権

(2) 同五六年三月二八日から同五九年八月二〇日まで専用実施権

(3) 同五九年八月二一日から同六一年一月二七日まで独占的通常実施権

(4) 六一年一月二八日から同年五月三一日まで専用実施権

2  本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(ただし、昭和五八年七月二七日付訂正審判請求に基づき訂正したもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許審判請求公告中の訂正明細書(以下「本件訂正公報」という。)の特許請求の範囲の項記載のとおりである。

3  被告は、昭和五八年頃から同六一年五月三一日までの間、業として、別紙目録記載の風力推進波乗り装置(以下「被告製品」という。)を販売した。

4  被告製品は、次に述べるとおり、本件発明の構成要件をすべて充足し、その作用効果も本件発明のそれと同一であるから、本件発明の技術的範囲に属する。

(一)(1) 本件発明の構成要件は、次のとおりである。

A 使用者を支持する本体装置である波乗り板があること

B 推進力として風を受け入れる風力推進手段があること

C 前記風力推進手段は、

ア 円柱と、

イ 該円柱に長い端縁部で取り付けられた帆と、

ウ 前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互いに連結され、かつ、一端で前記円柱に、また、他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、

エ 該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントと

を備えることを特徴としていること

(2) 本件発明の作用効果は、次のとおりである。

波乗り板に帆を設けることによってこれを水上ボートにかえる場合、突風や激風によって波乗り板が転覆する危険性が大であったが、本件発明は、突風又は激風が襲った場合、使用者が帆から手をはなし風力により帆を風下に倒すことにより、本体装置の転覆を免れることができるようにしたものであり、更に、使用者がブームを把持し、風向きに対し、帆の位置及び角度を調節するだけで、波乗り板を使用者の望む方向に進行させることができるという作用効果を有する。

(二)(1) 被告製品は、別紙目録記載のとおりの構造であるところ、

ア 波乗り板である本体装置(ボード部)a(被告製品についてのa、b等の記号及び番号は、別紙目録記載の記号及び番号を指す。)を有し、かつ、同装置は、使用者を支持する働きを有しているので、本件発明の構成要件Aを備えており、

イ マストcにその一辺を嵌装されたセイルbが存在し、また、マストcの下端部はゴム・ジョイント(ジョイント部)kのマスト受部1に嵌合され、右ゴム・ジョイント(ジョイント部)kのマスト受部1はラバー7と、ラバー7は埋め込みボルト8を介して下端部16と各連結されて、本体装置(ボード部)aに結合され、セイルbが別紙目録の三3に記載する態様の作動(作用効果)をするから、推進力として風を受け入れる風力推進手段を有するものであり、したがって、本件発明の構成要件Bを備えており、

ウ マストc、セイルb、一対のブームd及びマストcを本体装置(ボード部)aに回転及び起伏自在に連結するゴム・ジョイント(ジョイント部)kを備え、かつ、各部材は、別紙目録の三1ないし3に記載する態様の作動をするから、本件発明の構成要件Cを備えている。

(2) 被告製品の作用効果は、本件発明のそれと同一である。

5  原告ウィンドサーフィン及び原告勝和機工は、原告勝和機工製造に係るセイルボード(以下「原告製品」という。)を原告勝和機工の子会社である訴外ウィンドサーフィン・ジャパンを通じて販売していた。

被告は、原告ウィンドサーフィンが本件特許権を有し、かつ、原告勝和機工が前記1(二)のとおり独占的通常実施権ないし専用実施権を有することを知りながら、昭和五八年頃から同六一年五月三一日までの間、被告製品を少なくとも四五〇艇販売した。

原告らは、被告の右行為により、原告製品の販売数量が少なくとも四五〇艇、金額にして七三〇〇万円減少したため、次のとおり損害を被った。

(一) 原告勝和機工が原告製品を販売して得る利益は、販売価格の二五パーセントであるから、失った利益の額は、少なくとも一八二五万円(七三〇〇万円×二五パーセント=一八二五万円)を下らない。

(二) 原告ウィンドサーフィンは、原告勝和機工に対する本件特許権の独占的通常実施権の許諾ないし専用実施権設定の対価として、正味販売価格の六パーセントに相当するロイヤリティーを受ける権利を有していた。したがって、原告ウィンドサーフィンは、原告勝和機工が七三〇〇万円相当の原告製品の販売をすることができなかったことにより、その六パーセントに相当する四三八万円のロイヤリティー収入を失い、これと同額の損害を被った。

6  よって、原告勝和機工は、被告に対し、前記5(一)の損害一八二五万円(ただし、うち四三八万円は、原告ウィンドサーフィンの請求と不真正連帯債権)、原告ウィンドサーフィンは、被告に対し、前記5(二)の損害四三八万円(ただし、原告勝和機工の請求と不真正連帯債権)及びこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  (一)請求の原因1(一)は認める。

(二) 同1(二)のうち、原告勝和機工が原告ウィンドサーフィンから、(2)及び(4)のとおり、範囲を日本国全域とする専用実施権の設定を受けていたこと(ただし、(2)の期間は除く)は認め、その余は、(2)の期間を含め知らない。

2  同2は認める。

3  同3のうち、被告製品が別紙目録記載の作動態様の項3後段(「この場合……」以下)の作動をすることは否認する。被告製品においては、マスト受部1はラバー7に対し回転可能となっていて、この部分で回転する。したがって、ラバー7は、回転運動には関与せず、前後左右の方向に屈曲するだけである。

また、商品名一覧表のうち、ウィンドグライダーアロハ、同スラローム、デュフォーウィング四・二、同六・三及びビック二〇〇Sについては、被告は、販売していない。

同3のその余の事実は認める。

4  同4(一)(1)は認め、同4(一)(2)については、本件明細書の発明の詳細な説明の項に原告ら主張のような記載のあることは認める。

同4(二)(1)のうち、被告製品に使用者を支持する本体装置である波乗り板があること(構成要件A)及び推進力として風を受け入れる風力推進手段があること(同B)は認め、その余は否認する。被告製品は、後記のとおり、ユニバーサルジョイントを備えておらず、構成要件Cエを充足しない。

5  同5のうち、被告が原告ら主張の期間内に被告製品を四五〇艇販売したことは認め、その余は争う。

三  被告の主張

被告製品は、以下のとおり、本件発明の構成要件Cエを充足しない。

1  本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載に照らせば、次のとおり、被告製品は、本件発明の構成要件Cエを充足しない。

(一) 本件明細書の特許請求の範囲の項には、「ユニバーサルジョイント」を備えると記載されている。ところで、明細書に用いられている用語は、特段の事情のない限り、その有する普通の意味で使用され解釈されるべきものであるから(特許法施行規則様式16、備考7、8本文)、本件明細書においても、「ユニバーサルジョイント」とは、通常の意味のものを指すと解される。「ユニバーサルジョイント」は、通常、自在継手を意味し、一体をなした一組の継手であって、一定の軸のまわりを自由に回転することのできる部分を二か所以上有する機械的構造のものをいう。

これを本件明細書の実施例に示されているユニバーサルジョイントを例にとって以下説明する。円柱12(本件明細書の実施例についての番号は、本件明細書記載の番号を指す。)が前後方向に倒れるときは、ピン48を中心として回動し、左右方向に倒れるときは、ピン62を中心として回動する。そして、前後方向に倒れながら左右方向に倒れることもできるが、それだけでは全方向に自由に倒れ、かつ、回動することはできず、ねじ68を中心としてピン48と62自体が回動することが必要である。すなわち、このように傾斜と回転が自在の継手として用いる場合、ピン48と62及びねじ68の三軸の協働が必要であり、全体が組み合わさって一組のユニバーサルジョイントを形成している。また、自在継手は、動力を伝達する作用を有するものであるが、本件発明のユニバーサルジョイントも、円柱12に加えられた回転力が、ピン48及び同62を介してクレビス58(ねじ68)に伝えられるものであり、ただ、ねじ68において空回りさせているにすぎないから、自在継手と異なるところはない。

これらの点に照らせば、本件発明の特許請求の範囲における「ユニバーサルジョイント」とは、実施例に示されているようないわゆる機械的構造の継手を意味するものと解すべきである。

原告らは、本件発明における「ユニバーサルジョイント」についてこれを機能的にとらえ、回転及び起伏させるような機能を有する継手は、すべて本件発明にいう「ユニバーサルジョイント」であると主張している。しかし、本件明細書には、「ユニバーサルジョイント」について原告ら主張のような意味に解すべきことを示唆する記載はなく、また、仮に「ユニバーサルジョイント」の意味を原告ら主張のように機能的に解するのであれば、特許請求の範囲において「……前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結することを特徴とする……」と記載すれば足り、わざわざ「……連結するユニバーサルジョイントを備えることを特徴とする……」と記載する必要はないから、この点からも、原告らの主張が失当であることは明らかである。

(二)(1) 本件明細書の発明の詳細な説明の項には、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によって波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」(本件訂正公報三頁右欄一三行ないし一七行)と記載されている。

右記載は、実施例として、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆ど自由浮動状態にすることができるような接手」とがあることを意味する。すなわち、「ユニバーサルジョイント」と、それ以外の「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」とがあるのであって、後者は、「ユニバーサルジョイント」の例ではなく、これに属さない別個の継手を意味する(もっとも、本件明細書には、「自由浮動状態にすることができるような接手」の具体的な構成は示されておらず、「ユニバーサルジョイント」について「三個の回転軸線を備えた接手」の一例が示されているだけである。)。

(2) 右記載は、本件発明の特許出願の願書に最初に添付した明細書(昭和五八年七月二七日付訂正前の明細書。以下「当初の明細書」という。)にもある。そして、本件発明の当初の明細書の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)の特許請求の範囲の項に記載されているとおり、「使用者を支持するようになった本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになった風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によって制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」というものであり、前記の各継手の両者を含んでいた。

このことは、本件特許出願のもととなっている米国特許出願の明細書の記載からも明らかである。すなわち、本件発明は、一九六八年三月二七日米国特許出願七一六五四七号に基づき優先権主張をして出願されたものであるところ、右米国特許出願明細書においては、その第一クレームは、訂正前の本件発明のクレームとほぼ同じであり、第二クレーム以下は、「第二クレーム前記推進手段が制御をしないとき実質的に自由浮動状態となる第一クレームの装置、第三クレーム前記推進手段がユニバーサルジョイントによって前記本体装置に結合されている第一クレームの装置、第四クレーム前記ユニバーサルジョイントが三つの回転軸を有している第三クレームの装置」となっており、また、前記発明の詳細な説明の項の記載に対応する英文説明書の記載は、「特定の実施例においては、風力推進手段をユニバーサルジョイント、例えば三個の回転軸を有する継手で、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を実質的に自由浮動状態にすることができるような継手をもって波乗り板に連結している。」となっている。この記載からみると、風力推進手段と本体装置との結合手段には、ユニバーサルジョイントとその他の継手の二種類があり、ユニバーサルジョイントの一例として三軸線ユニバーサルジョイントが挙げられている。そして、第二クレームは、その他の継手をクレームし、第三クレームは、ユニバーサルジョイントをクレームしている。また、第二クレームも第三クレームも、「……第一クレームの装置」となっていて、それぞれ別個に第一クレームの実施態様となっていることからすれば、ユニバーサルジョイントとその他の継手は別のものである。このことは、三軸線ユニバーサルジョイントをクレームしている第四クレームが「……第三クレームの装置」となっていて、第三クレームの実施態様であることを示していることと対比してみれば明らかである。右のとおり、米国特許出願明細書の記載においても、風力推進手段と本体装置とを連結するものとして、ユニバーサルジョイントではない、その他の継手があることを予定しているのである。

(3) 訂正後の本件明細書の発明の詳細な説明の項に、訂正前と同様の記載が存在することは前示のとおりであるが、その特許出願請求の範囲の記載は、「ユニバーサルジョイントを備えることを特徴とする」としている。したがって、右訂正後においては、本件発明は、前記の二つの継手のうちユニバーサルジョイントを有することを要件とするものである。

(4) 以上のとおり、使用者が操作しないとき推進手段をほとんど自由浮動状態にすることができるような継手のすべてがユニバーサルジョイントに該当する旨の原告らの主張は、失当であって、いわゆる機械的構造のユニバーサルジョイントで回転及び起伏させるように連結するというのが本件発明の特徴であり、連結手段たる継手のうち、いわゆる機械的構造のユニバーサルジョイントを用いることが本件発明の要件なのである。

(三)(1) 被告製品のゴム・ジョイント(ジョイント部)kは、ラバー7によって前後左右と中間方向への傾斜が行われ、マストcの回転は上部の埋め込みボルト6と下部の下端部16を中心として行われているから、本件発明の実施例におけるピン48と62が形成するような二軸はなく、マストcの傾斜と回転との協働作用がない(マスト受部1は、埋め込みボルト6及びナット2によりラバー7に回転可能に連結されているから、マストcは、ラバー7とは無関係に回転し、マストcの回転がラバー7及びその下部の部材に伝わることはない。)。いわば、被告製品のゴム・ジョイント(ジョイント部)kは、異なる作動を受け持つ独立した二つの機構が存在しているのであって、一つのユニバーサルジョイントがあるわけではない。そして、被告製品のゴム・ジョイント(ジョイント部)kは、どの方向にも適度の弾力をもって滑らかに倒れ、屈曲の際の抵抗もすべての方向について同じであるうえ、屈曲部に機械的部品がないため安全であって、ユニバーサルジョイントとは異なる優れた作用効果を有している。

したがって、被告製品のゴム・ジョイント(ジョイント部)kは、ユニバーサルジョイントに該当せず、被告製品は、本件発明の構成要件Cエを充足しない。

(2) 被告製品のゴム・ジョイント(ジョイント部)kがユニバーサルジョイントに該当しないことは、講学上ユニバーサルジョイントがゴムを利用した弾性継手とは全く別のものとして分類されていることや、原告ウィンドサーフィン自身も被告製品におけるようなゴム製のジョイントとユニバーサルジョイントとを区別して用いている例があることからも、明らかというべきである。

すなわち、株式会社プロ請求の無効審判請求事件(昭和五五年一〇月一一日請求。昭和五五年審判第一八八一四号)における第二答弁書において、被請求人である原告ウィンドサーフィンは、「ユニバーサルジョイントの代りにゴム体を用いて帆柱を旋回自在とした市販のウィンドサーフィン(ボードセーリング)用艇体」と述べているほか、株式会社スリーエスに対して提起した特許権侵害排除請求事件(当庁昭和五七年ワ第七四七五号)における昭和五七年一〇月一二日付準備書面において、原告勝和機工は、「なお、特定の実施例においては継手(ジョイント)として、三個の回転軸線を供えた継手、即ちユニバーサルジョイントが使用されているが、使用者が操作しないとき推進手段を殆ど自由浮動状態にする構造のもの、即ち風力推進手段が自由に三六〇度揺動するジョイントであればゴム製ジョイント等でも差支えない。」と述べている。これらによれば、原告ら自身も、「ゴム製ジョイント」をユニバーサルジョイントと別のものと考え、そして、昭和五八年七月二八日付訂正審判請求に基づく訂正前における、本件発明の特許請求の範囲にその両者が含まれていると考えていたことが明らかである。

更に、原告製品についての一九八三年版カタログにも、「ユニバーサルジョイント」と「ゴム製の」ジョイントとを異なるものとして区別した記載がある。

2  本件発明の出願経過及び訂正審判の経過に照らせば、本件発明におけるユニバーサルジョイントは、本件明細書において実施例として記載された構造のものに限られるべきである。

(一) 本件発明の出願経過及び訂正審判の経過は、次のとおりである。

ア 出願 昭和四四年三月一一日

イ 公告 同四六年五月三一日

ウ 登録 同四七年一月一一日

エ 無効審判請求 同五五年一〇月一一日請求(昭和五五年審判第一八八一四号。請求人株式会社プロ。以下「プロ事件」という。)

オ 第一次訂正審判請求 同五七年二月二六日請求(昭和五七年審判第三三二〇号)

カ プロ事件無効審決 同五八年五月二七日(同年六月六日送達)

キ 無効審決取消請求出訴 東京高等裁判所昭和五八年行ケ第一六〇号

ク 第一次訂正審判請求取下げ 同年七月二七日

ケ 第二次訂正審判請求 同日(昭和五八年審判第一六五七七号)

コ 無効審決取消判決 同六〇年六月二四日

サ プロ事件無効審判請求取下げ 同年八月一二日

シ 訂正審判訂正審決 同年一一月二〇日

(二)(1) 本件発明の当初の明細書の特許請求の範囲は、「使用者を支持するようになった本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになった風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によって制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」というものであった。

(2) 本件特許権の登録後、前記(一)エのプロ事件の無効審判請求がされたが、その理由は、当初の明細書においては三軸線ユニバーサルジョイントが実施例として開示されているにすぎないのに、前記(1)のような特許請求の範囲ではその範囲が不明瞭となり、その結果、ゴム体の柔軟性を利用して帆柱を旋回可能とするいわゆるゴム・ジョイントまで本件発明の特許請求の範囲に含まれるおそれがあって不当であり、特許法三六条四項、五項の規定に違背するという趣旨のものであった。

(3) 原告ウィンドサーフィンは、プロ事件の無効審判請求に対し、前記(一)オの第一次訂正審判請求をし、特許請求の範囲を「使用者を支持するようになった本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し、且つ推進力として風を受け入れるようになった風力推進手段とを包含し、前記風力推進手段は、本体装置に枢着した円柱と、前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆ど自由浮動状態にする継手と、帆および帆をピンと張るため円柱上に横方向に取付け、手で保持するようになったアーチ状に連結される一対のブームを包含し、前記風力推進手段の位置が使用者によって制御でき、前記風力推進手段が使用者不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」と訂正するよう請求したが、同五八年五月二七日、前記(一)カのプロ事件無効審決が出されたため、同年七月二七日、第一次訂正審判請求を取り下げるとともに、同日、前記(一)ケの第二次訂正審判請求を行った。

(4) 原告ウィンドサーフィンは、第二次訂正審判請求の訂正審判請求書において、特許請求の範囲の項の記載の訂正は、「下記理由により、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする」ものであるとしたうえ、「c)さらに、上記風力推進手段について、その構成が原本の発明の詳細な説明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されたとおりの「円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備える」ものであることを特許請求の範囲の記載中で明らかにすることは、(原本の特許請求の範囲に風力推進装置として記載されていた)上記風力推進手段の構成を限定するものであり、この限定は特許請求の範囲の減縮に該る。d)乗物の一例として波乗り板が含まれること、及び風力推進手段が円柱、帆、一対のブームおよびユニバーサルジョイントを備えることは、原本の発明の詳細な説明の欄に記載され、また、添付図面を参照しての実施例の説明に示されており、従って、本体装置及び風力推進手段を上記のように限定することは、原本の特許請求の範囲に記載されていた構成事項を、原本の発明の詳細な説明の欄に記載されていた事項に又はその事項により特定するものであると共に、これによる特許請求の範囲の訂正の前後において発明の目的は同一であるから、上記訂正による特許請求の範囲の減縮は、特許請求の範囲の実質的変更には該らない。」と主張した。そして、右主張が認められて、特許請求の範囲が、本件明細書記載の特許請求の範囲のとおりに訂正されたものである。

(5) 以上の経過により明らかなとおり、「ユニバーサルジョイント」は、風力推進手段の構成を限定するために、訂正後の本件発明の構成要件に加えられたものであり、かつ、「上記風力推進手段について、その構成が原本の発明の詳細な説明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されたとおりの……もの」に限定されたものであって、本件明細書添付の図面に示されたとおりの機械的構造のジョイントを意味する。

(6) 被告製品ゴム・ジョイント(ジョイント部)kは、前記1(三)(1)のとおりの構造であり、本件明細書に実施例として記載された「ユニバーサルジョイント」に該当せず、したがって、被告製品は、本件発明の構成要件Cエを充足しない。

四  原告らの主張

1  被告の主張1について

(一) 本件明細書には、「ユニバーサルジョイント」が「自在継手」であるという記載はなく、かえって、特許請求の範囲には、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」と記載されており、「ユニバーサルジョイント」の構成、作動態様及び作用効果が明確に定義されているうえ、発明の詳細な説明の項においても、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるよう」なユニバーサルジョイントは、特定の実施例においては、「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」であると定義されている(本件訂正公報三頁右欄八行ないし一六行)。右のとおり、本件発明の「ユニバーサルジョイント」は、自在継手とは異なるものである。

また、自在継手は、二軸を連結し、動力を伝える役目を果たすものであるのに対し、本件明細書にユニバーサルジョイントの一実施例として記載されている「三個の回転軸線を備えた接手」は、帆を介して円柱12が受けた風力を波乗り板10に伝達しないように構成されているから、この点でも自在継手とは異なるものである。

(二) 被告製品のゴム・ジョイント(ジョイント部)kは、ラバー7によって前後左右と中間方向への傾斜が行われ、マストcの回転は上部の埋め込みボルト6と下部の下端部16を中心として行われており、ブームdを握る使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるものであるから、本件発明の構成要件Cエのユニバーサルジョイントに該当する。

(三) 被告の主張1(三)(2)記載の、無効審判請求事件(プロ事件)の第二答弁書、特許権侵害排除請求事件の準備書面及び原告製品のカタログに被告主張の記載があることは認めるが、これをもって、原告らが「ユニバーサルジョイント」を機械的な構造のものに限定しているということはできない。

プロ事件の第二答弁書の記載は、審判請求人である株式会社プロが提出した審判請求書に記載された証拠方法の表示をそのまま引用したまでであって、被請求人である原告ウィンドサーフィンの主張とはいえないし、原告製品の一九八三年版カタログは、ボードセーリングの愛好者への話題提供に主眼を置いているもので、文書の性質上、技術的・法律的に厳密に作成されるわけではないから、その記載を理由とする被告の主張は、失当である。

2  被告の主張2について

本件発明の出願経過及び訂正審判の経過が、被告の主張2(一)記載のとおりであることは認めるが、原告ウィンドサーフィンが、この過程において、本件発明の特許請求の範囲に関して、ユニバーサルジョイントの構成を特定の実施例に限定したことはない。

被告は、第二次訂正審判請求における訂正審判請求書の記載を理由として、右訂正によりユニバーサルジョイントが本件明細書添付の図面に示されたとおりの機械的構造のジョイントに限定されたと主張するが、失当である。右訂正審判請求書の「上記風力推進手段について、その構成が原本の発明の詳細な説明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されたとおりの「円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備える」ものであることを特許請求の範囲の記載中で明らかにすることは、(原本の特許請求の範囲に風力推進装置として記載されていた)上記風力推進手段の構成を限定するものであり」との記載は、「上記風力推進手段」そのものの構成が「原本の発明の詳細な説明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されたとおりの」ものであることを述べたものである。そして、「実施例として記載されかつ添付図面に示された」部分というのは、「風力推進手段」を構成する「円柱」、「該円柱に長い端縁部で取付けられた帆」、「前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱また他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブーム」及び「該ブームをにぎる使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」について説明され、図示された部分のすべてということになる。すなわち、訂正審判請求書においては、風力推進手段そのものの構成が、原本の発明の詳細な説明の項において実施例として記載され、かつ、添付図面に示されたとおりのものであることを、特許請求の範囲中で明らかにすると述べているにすぎず、同請求書にはユニバーサルジョイントの構成を特定の実施例に限定するとの記載はない。

また、本件明細書の実施例についてみるに、ユニバーサルジョイントの実施例は、訂正前の明細書の発明の詳細な説明の項に記載されているユニバーサルジョイントの実施例と同一の、「三個の回転軸線を備えた接手」及び「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」の二個の例であって、いずれも帆を波乗り板で回転及び起伏させることができるように円柱を波乗り板に連結する継手であり、更に、添付図面に示されているのは、訂正の前後を通じて「三個の回転軸線を備えた接手」であるところ、これは、「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」の例でもあり、これらの実施例及び添付図面の記載は、訂正の前後を通じて同一である。

右のとおり、訂正審判請求書において「発明の詳細な説明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されたとおり」と記載したからといって、特許請求の範囲の減縮が、第二次訂正審判請求における訂正審判請求書で主張した風力推進手段そのものの限定にとどまらず、ユニバーサルジョイントをその一構造例に限定したということはできない。

したがって、第二次訂正審判において、ユニバーサルジョイントが本件発明書記載の一構造例に限定されたとすることはできない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一  請求の原因1(一)の事実(原告ウィンドサーフィンが本件特許権を有していたこと)は、当事者間に争いがない。

同1(二)の事実(原告勝和機工の実施権)については、<証拠>(特許登録原簿記録事項証明書)によれば、原告勝和機工は、本件特許権について、原告ウィンドサーフィンから、昭和四九年八月二〇日、地域を日本国全域、期間を同日から一〇年間とする専用実施権の設定を受け、昭和五六年三月二七日にその登録がされたこと、その後、昭和五九年八月二〇日、地域を日本国全域、期間を同日から特許権存続期間満了(昭和六一年五月三一日)までとする専用実施権の設定を受け、昭和六一年一月二七日にその登録がされたことが認められる(以上の事実のうち、昭和六一年一月二八日から特許権存続期間満了まで、及び、それ以前にも、原告勝和機工が、本件特許権について、地域を日本国全域とする専用実施権を有していたことは当事者間に争いがない。)。

二  請求の原因2の事実(本件明細書の特許請求の範囲の記載)は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と<証拠>(本件訂正公報)によれば、本件発明の構成要件は、請求の原因4(一)(1)のとおりであると認められる。

三  請求の原因3の事実(被告による被告製品の販売)は、当事者間に争いがない(ただし、被告製品の作動態様のうち、別紙目録記載の作動態様の項3後段(「この場合……」以下の部分)を除く。)。

四  そこで、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

1  被告製品が本件発明の構成要件A及びBを充足することは当事者間に争いがない。原告らは、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」は、本件明細書の特許請求の範囲において「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」と定義され、発明の詳細な説明の項においても、特定の実施例において「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」と定義されているものであるから、被告製品のゴム・ジョイント(ジョイント部)kは本件発明のユニバーサルジョイントに該当し、したがって、被告製品は、本件発明の構成要件Cを充足する旨主張し、これに対して、被告は、本件発明のユニバーサルジョイントとは、実施例に示されているようないわゆる機械的構造の継手を意味するから、被告製品のゴム・ジョイント(ジョイント部)kはこれに該当せず、したがって、被告製品は、右構成要件Cを充足しない旨主張するので、この点について審案する。

2  <証拠>によれば、次の各事実を認定することができる。

(一)本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の語が使用されている箇所としては、まず、特許請求の範囲の項において、「……該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。」(五頁右欄一七行ないし二一行。本件訂正公報における頁行を示す。この項において以下同じ。)との記載があるほか、発明の詳細な説明の項において、(1)「本発明は、使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置を提供する。」(三頁右欄一行ないし一二行)、(2)「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によって波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」(三頁右欄一三行ないし一七行)、(3)「第1図を参照すれば使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であって円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを包含する風力推進装置が図示されている。」(三頁右欄三三行ないし四頁左欄三行)、(4)「第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によって前記台29に連結されている。前記ジョイント36は全体を不銹鋼で作り且つ木ねじ37によってベース27の両側に保持されている締め板38、40によって円柱12に取付けられている。」(四頁左欄二〇行ないし二五行)、(5)「操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジョイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる。」(四頁右欄四四行ないし五頁左欄二行)、(6)「本発明によれば、風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、突風又は激風時に風力推進手段のブームから手を離せば、該風力推進手段はその帆に風を受けない方向へ倒れ、波乗り板を安定させ、その転ぷくを防ぐことができる。」(五頁右欄四行ないし九行)との各記載があり、また、図面の簡単な説明の項において、第2図の説明として、「第2図は第1図の線2―2における帆の回転及び起伏に使用するユニバーサルジョイントの断面図」(一頁左欄二行ないし四行)との記載がある。図面としては、風力推進装置の外観図である第1図(六頁)中に三軸線ユニバーサルジョイント36が記載されているが、同図ではその構造は不明であり、第2図(五頁)は、三軸線ユニバーサルジョイントの断面図であって、その詳細な構造を明らかにしている。

(二)本件明細書において、「ユニバーサルジョイント」として具体的にその構造が示されているものは、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントのみであって、その構造については、願書添付の図面に記載されており(本件明細書五頁2図)、また、その説明として、発明の詳細な説明の項において、「第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によって前記台29に連結されている。前記ジョイント36は全体を不銹鋼で作り且つ木ねじ37によってベース27の両側に保持されている締め板38、40によって円柱12に取付けられている。前記締め板38、40はベース27の幾分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不銹鋼製管46の短い区画の両側に配置されている。1/4インチ(六・三mm)直径の頭付きピン48が前記締め板の延長部42、44の孔50、52の中をのび、頭付きピン48のコツタ孔56に挿入されたコツタピン54によって回転自在に取付けられている。不銹鋼の板で作ったクレビス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に配置されている。1/4インチ(六・三mm)直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレビスの側面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きピン62のコツタ孔に入ったコツタピン(図示せず)によって回転自在に取付けられている。前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従って、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。長さ3インチ(七六・二mm)、直径1/4インチ(六・三mm)の丸頭のねじ68がクレビス58のベース71の孔70を通りそこから座金72をその下の台29のほぞ孔78に入っているナット74とロックナット76を通り、これによってクレビス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がクレビス58のベースを充分な遊びをおいて保持し、クレビス58を座金72に接触して回転可能としている。前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従って、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(本件訂正公報四頁左欄二〇行ないし同頁右欄一五行)と記載されている。

3  右認定の事実によれば、本件明細書の特許請求の範囲の項には、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」との記載があるところ、原告は、右記載をもって本件発明における「ユニバーサルジョイント」の構成、作動態様及び作用効果が明確に定義されていると主張する。しかし、右記載は、「ユニバーサルジョイント」の作用ないしは機能を説明したにすぎないものであって、これがいかなる構造のものであるか、その構成については何ら説明するものではない。

次に、発明の詳細な説明の項においては、まず、右同様の記載(前記2の認定事実(一)中の(1)の記載)があるが、この記載が「ユニバーサルジョイント」の構成を何ら説明するものではないことは、既に述べたのと同様である。このほかに、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によって波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」との記載(同(2)の記載)があり、右記載について、原告は、「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」というのが「ユニバーサルジョイント」の特定の実施例であることを示しており、これによって本件発明における「ユニバーサルジョイント」の構成を明確にしていると主張し、これに対して、被告は、右記載は、実施例として「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」との二種類の継手があることを示しているものであり、「ユニバーサルジョイント」はこのうち前者に限定され、後者はこれに属さない別個の継手を意味するものであると主張する。右記載において示された「ユニバーサルジョイント」の実施例がいかなる範囲のものを指すかについての判断はしばらくおくとしても、仮に原告主張のように「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」というのが「ユニバーサルジョイント」の特定の実施例であるとしたところで、右記載からは、「ユニバーサルジョイント」の実施例として「三個の回転軸線を備えた接手」、すなわち、いわゆる三軸線ユニバーサルジョイント(その構造については、前認定のとおり、発明の詳細な説明の項及び図面において明らかにされている。)が含まれることは明らかとなるものの、「又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」については、その作用ないしは機能を述べるだけで、具体的にどのような構成のものがこれに当たるかは一切明らかでない(前認定のとおり、本件明細書においては、三軸線ユニバーサルジョイントのほかには具体的な構成を明らかにする記載は、一切存在しない。)。また、「風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、」との記載(同(6)の記載)についても、同様に、この記載によっては、「ユニバーサルジョイント」の作用ないしは機能は明らかとされているが、その構成は一切明らかでない。発明の詳細な説明の項におけるその余の「ユニバーサルジョイント」の記載(同(3)、(4)、(5)の各記載)は、いずれも特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造を説明するものである。

また、図面の簡単な説明の項において、第2図の説明として、「ユニバーサルジョイント」の語は用いられているものの、第2図においてその構造が示されているのは、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントである。そして、前認定のとおり、本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の語が使用されている箇所は以上ですべてであって、また、「ユニバーサルジョイント」の実施例についても、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造が明らかにされているだけであって、それ以外の継手について、その構造を明らかとするような説明文も図面も一切存在しない。

以上のとおり、本件明細書において用いられている「ユニバーサルジョイント」の語については、右に認定した以上に、右明細書においてその内容ないし構造が説明あるいは図面によって明らかにされているものとはいえない。

なお、<証拠>によれば、機械工学全書第四〇巻・機械用語事典には、「自在〔軸〕継手universaljoint」の項に「↓フック万能軸継手」の記載があり、「フック万能軸継手Hooke’suniversaljoint」の項に「接続すべき二軸の軸端にふたまた(ホークエンド)を設け、それぞれを一個の十字形部品の直交する二軸と回り対偶を利用して接続した原理のもので、接続された二軸は必ずしも一直線上にあることを必要とせず、ある角度で交わる向きにあってもさしつかえなく動力を伝えることができ、しかも一方の軸の整数回転は同じ整数回転を他軸に伝える性質のものである。フック継手、カルダン(軸)継手、自在(軸)継手ともいう。」との記載があること、また、機械工学上、「自在軸継手」は「軸継手」に属するものであるところ、「軸継手」は、「固定軸継手(一直線軸)」、「たわみ軸継手(一直線軸)」、「自在軸継手(交さ軸)」及び「その他(平行軸)」に分類され、このうち「たわみ軸継手(一直線軸)」に属するものとして、ゴム又は金属ばねを利用した「弾性軸継手」があること、機械工学上の自在継手が、接続された二軸間に動力を伝達する機能を有し、一方の軸の回転を他方の軸に伝えるものであるのに対し、本件発明における「ユニバーサルジョイント」は、動力の伝達を目的とするものではなく、連結された円柱と波乗り板との間に回転を伝達しないものであって、この点で両者は異なるが、機械工学上の「自在継手」と本件発明における「ユニバーサルジョイント」の実施例として本件明細書に記載された三軸線ユニバーサルジョイント36とを比較すると、前記三軸線ユニバーサルジョイントは、頭付きピン48により円柱12と管46とを連結し、頭付きピン48と直交する頭付きピン62により管46とクレビス58とを連結し、更にこれを丸頭のねじ68により回転可能に波乗り板10に取り付けたものであって、円柱12とクレビス58との関係では自在継手と同様の構造であるが、円柱12と波乗り板10との関係では回転可能な丸頭のねじ68が存在することから回転を伝達しない構造となっていることが認められ、右認定の事実によれば、機械工学上の用語としては、「universaljoint」の語は、一般に、「自在軸継手」と同義であって、一直線上になく、ある角度で交わる、接続された二軸間において、一方の軸の回転を同回転の整数回転の動力として他方の軸に伝える装置を意味するものであり、これに対して、本件発明における「ユニバーサルジョイント」が動力を伝達することなく円柱と波乗り板とを連結する機能を有するものである点に照らし、両者は、その意味する内容が異なるものというべきである。したがって、本件明細書における「ユニバーサルジョイント」の語は、その有する普通の意味としての、機械工学上の用語として使用されているということもできない。

以上によれば、本件明細書においては、特許請求の範囲はもちろん、発明の詳細な説明の項及び図面を子細に検討しても、「ユニバーサルジョイント」については、風力推進手段を回転及び起伏自在に波乗り板に連結する作用ないしは機能を有するものであることが明らかにされているだけであって、その構成については、その実施例として、唯一、三軸線ユニバーサルジョイントの構造が説明及び図面によって示されているにすぎない。

4  そして、他方、被告製品においては、本体装置(ボード部)aとマストcとがゴム・ジョイント(ジョイント部)kによって連結されており、ゴム・ジョイント(ジョイント部)kの構造が別紙目録第2図、第3図及び図面の説明の項並びに同目録構造の項2、4記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

5  そこで、被告製品におけるゴム・ジョイント(ジョイント部)kを本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の実施例としてその構造が明らかにされている三軸線ユニバーサルジョイントと比較すると、右三軸線ユニバーサルジョイントは、前認定(前記2(二)記載)のとおり、頭付きピン48により円柱12と管46とを連結し、頭付きピン48と直交する頭付き62により管46とクレビス58とを連結し、更にこれを丸頭のねじ68により回転可能に波乗り板10に取り付ける方法により風力推進手段と波乗り板を連結するものであって、頭付きピン48と頭付きピン62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、円柱12を各回転軸のまわりに回転可能とすることを通じて、波乗り板10上で起伏させることを可能としているが、他方、被告製品のゴム・ジョイント(ジョイント部)kは、マスト受部1を埋め込みボルト6及びナット2によりラバー7に回転可能に連結し、ラバー7に埋め込みボルト8及びナット12により固定された下端部16を、本体装置(ボード部)aにネジ14で固定された台座13に回転可能に挿入して固定することにより、風力推進手段であるマストcと波乗り板である本体装置(ボード部)aを連結するものであって、ラバー7を構成する材質自体の特性である弾性を利用することによって前後左右の方向への屈曲傾斜を可能としているものであり、前記三軸線ユニバーサルジョイントにおける相互に直交する水平の二軸に相当する構造は存在しない。右によれば、被告製品におけるゴム・ジョイント(ジョイント部)kと本件明細書における三軸線ユニバーサルジョイントとでは、風力推進手段を本体装置上で起伏自在とする構成において、技術的思想を異にするものというべきである。

6  そして、前述のとおり、本件発明における「ユニバーサルジョイント」について、本件明細書においてその構成が明らかにされているのは、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントだけであることからすれば、少なくとも、被告製品におけるゴム・ジョイント(ジョイント部)kのように、構成部材の材質の弾性を利用することによって前後左右の方向への屈曲傾斜を可能とする構造については、本件明細書においてその技術事項の開示があるものと認めることができない。

したがって、被告製品のゴム・ジョイント(ジョイント部)kは、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」に該当するものとはいえない。

7  このことは、次の点からも明らかである。

すなわち、<証拠>によれば、当初の明細書の特許請求の範囲の項には、「1使用者を支持するようになった本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになった風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によって制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」(本件公報三頁6欄一四行ないし一九行)と記載されていて、「ユニバーサルジョイント」の語は用いられておらず、発明の詳細な説明の項には、前記2の認定事実(一)の(2)とほぼ同一の後記記載(同一頁2欄二五行ないし二九行)、同(4)と同一の記載(同二頁3欄三八行ないし四三行)及び同(5)と同一の記載(同三頁5欄五行ないし八行)はあるものの、同(1)、(3)及び(6)に対応する記載はいずれもなく、他に「ユニバーサルジョイント」の語を用いた記載はない。図面の簡単な説明の項には前記2の認定事実(一)とほぼ同一の記載(同一頁1欄二〇行ないし二二行)があり、願書添付の図面についても、同(一)と同一の図面であることが認められる。

右のとおり、当初の明細書においては、特許請求の範囲の項に「ユニバーサルジョイント」の語はなく、また、前記2の認定事実(一)の(4)及び(5)と同一の記載中の「ユニバーサルジョイント」は、いずれも特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントを意味するものである。したがって、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントを離れての「ユニバーサルジョイント」の語は、前記2の認定事実(一)の(2)とほぼ同一の記載である「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によって乗物本体に前記推進装置が連結されている。」との記載部分だけに存在することになる。そこで、右部分において「ユニバーサルジョイント」の語の意味する内容を検討するに、まず、右記載中の、「三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」との関係については、後者は具体的な構造を離れて抽象的な作用ないしは機能を説明する記載であって、その意味する範囲は広範であり、前者も包含するものである。このように、「三個の回転軸線を備えた接手」が「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」に包含される関係にある以上、両者が、共に「ユニバーサルジョイント」の例示として、接続詞「又は」によって結ばれる並列的な関係に立つものと解することはできない。そして、前記のような両者の内容的な関係にかんがみれば、通常の用語法としては、むしろ、「ユニバーサルジョイント」の例示としては「三個の回転軸線を備えた接手」のみであって、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と、それ以外の「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」とが、接続詞「又は」によって並列的に結ばれているものと解するのが相当である。そうであれば、当初の明細書においては、「ユニバーサルジョイント」について、その例示として「三個の回転軸線を備えた接手」、すなわち、三軸線ユニバーサルジョイントが挙げられるだけであって、「ユニバーサルジョイント」以外にも「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」が存在することになる。右のとおり、「ユニバーサルジョイント」は、「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」のすべてではなく、そのうちの一部を指すものである以上、その意味する範囲は、例示されている唯一の例である三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するというべきである。

そして、当初の明細書の特許請求の範囲の項の記載は、前記のとおりであって、そこでは風力推進装置と本体装置とを連結する継手については何ら触れられていないから、右記載からは、継手として「ユニバーサルジョイント」を用いたものであっても、それ以外のものを用いた場合であっても、特許請求の範囲に含まれ得ることになる。

当初の明細書における「ユニバーサルジョイント」の意味が右のようなものである以上、昭和五八年七月二七日付訂正審判請求に基づく訂正後の本件明細書においても、「ユニバーサルジョイント」の語は、他に特段の事情のない限り、右と同一の内容を意味するものとして理解すべきものというべきである。そして、本件明細書において、「ユニバーサルジョイント」の語について、その内容を定義した記載が新たに加えられたような事情のないことは、既に認定した事実により明らかであるから、結局、本件明細書における「ユニバーサルジョイント」の語は、当初の明細書におけるのと同様、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。

したがって、前記訂正において、「ユニバーサルジョイント」の語を特許請求の範囲に持ち込むことにより、風力推進手段と本体装置とを連結する手段の構造をも構成要件の一つとした本件発明は、訂正前の当初の明細書における特許請求の範囲を減縮したものというべきであり、連結手段として、「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」のうち前記のような「ユニバーサルジョイント」を用いているものだけが、特許請求の範囲に含まれるというべきである。

そして、被告製品において風力推進手段と本体装置とを連結しているゴム・ジョイント(ジョイント部)kが、三軸線ユニバーサルジョイントないしはこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものに該当しないことは、前述のとおりであるから、被告製品は、本件発明における「ユニバーサルジョイント」を備えるものとはいえないことになる。

8  右に述べたところは、本件発明の出願経過及び訂正審判の経過をみるとき、一層明らかとなる。

すなわち、本件発明の出願の経過及び訂正審判の経過が被告の主張2(一)記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。そして、右争いのない事実に<証拠>を総合すれば、次の各事実を認定することができる(この認定を左右するに足りる証拠はない。)。

(一)  昭和四四年三月一一日の本件発明の特許出願の願書に最初に添付した明細書(当初の明細書)の特許請求の範囲の項の記載は、「1使用者を支持するようになった本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになった風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によって制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」(本件公報三頁6欄一四行ないし一九行)というものであり、同明細書の発明の詳細な説明の項及び願書添付の図面の記載の内容は、前記7において認定したとおりである。

(二)  本件特許権が昭和四七年一月一一日に登録された後の、昭和五五年一〇月一一日に株式会社プロは、本件特許権について無効審判請求をし(昭和五五年審判第一八八一四号。プロ事件)、無効事由の一つとして、当初の明細書の発明の詳細な説明の項及び願書添付の図面においては、本件発明にいう「旋回」を可能とする手段として、三軸線ユニバーサルジョイントが実施例として開示されているにすぎないのに、前記(一)のような特許請求の範囲では、右開示例とは思想的に異なりゴム体の弾性を利用して帆柱を旋回起伏自在とし、また、効果においても相違するいわゆるゴム・ジョイントまで包含されることになって不当であり、特許法三六条四項、五項の規定に違背する旨を主張した。

(三)  右プロ事件の無効審判請求の後である、昭和五七年二月二六日に原告ウィンドサーフィンは、本件特許権につき最初の訂正審判請求(昭和五七年審判第三三二〇号。第一次訂正審判請求)をしたが、その内容は、特許請求の範囲の項の記載を、「使用者を支持するようになった本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協動し、且つ推進力として風を受け入れるようになった風力推進手段とを包含し、前記風力推進手段は、本体装置に枢着した円柱と、前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手と、帆および帆をピンと張るため円柱上に横方向に取付け、手で保持するようになったアーチ状に連結される一対のブームを包含し、前記風力推進手段の位置が使用者によって制御でき、前記風力推進手段が使用者不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」と訂正するというもので、当初の明細書の発明の詳細な説明の項及び願書添付の図面の記載については何らの訂正も請求していない。

(四)  昭和五八年五月二七日、プロ事件において、本件発明の特許を無効とする審決がされたが、その理由としては、当初の明細書においては、例えば、「旋回自在に協動して」は、その記載と関連づけて実施例の構成が説明されておらず、どのような構成を意味するのか不明瞭であるなど、その記載中に意味の不明瞭な記載が多々存在し、その記載では、「本体装置」、「風力推進装置」、「制御」及び「旋回」等の意味が不明瞭であるから、本件発明の「風力推進装置」の構成が不明瞭であり、また、本件発明の構成に対応する本件発明の目的及び効果も不明瞭であって、当初の明細書は、特許法三六条四項に規定する要件を充たしていないこと、更に、特許請求の範囲に記載された「旋回可能に協動し」、「前記推進装置の位置が前記使用者によって制御でき」及び「前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うこと」等と関連づけて実施例の具体的構成が説明されておらず、これらの記載がどのような構成を意味するのか不明瞭であり、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項とはいえないなど、当初の明細書はその特許請求の範囲に、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載していないから、当初の明細書は、特許法三六条五項に規定する要件を充たしていないことが挙げられている。

(五)  原告ウィンドサーフィンは、右プロ事件の無効審決の取消しを求める訴えを東京高等裁判所に提訴する(同裁判所昭和五八年行ケ第一六〇号無効審決取消請求訴訟)とともに、昭和五八年七月二七日に前記第一次訂正審判請求を取り下げ、同日、新たな訂正審判請求(昭和五八年審判第一六五七七号。第二次訂正審判請求)をしたが、その内容は、当初の明細書の特許請求の範囲の項の記載を、本件明細書記載のとおりの「1使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。」(本件訂正公報五頁右欄一一行ないし二一行)と訂正し、発明の詳細な説明の項の記載についても、本件明細書記載のとおりの内容に訂正するというものであった(図面についての訂正は請求していない。)。

そして、右第二次訂正審判請求の訂正審判請求書において、原告ウィンドサーフィンは、右の特許請求の範囲の項の記載の訂正は、「下記理由により、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする」(同訂正審判請求書一一頁一七行ないし一八行)ものであるとしたうえ、「c)さらに、上記風力推進手段について、その構成が原本の発明の詳細な説明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されたとおりの「円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備える」ものであることを特許請求の範囲の記載中で明らかにすることは、(原本の特許請求の範囲に風力推進装置として記載されていた)上記風力推進手段の構成を限定するものであり、この限定は特許請求の範囲の減縮に該る。d)乗物の一例として波乗り板が含まれること、及び風力推進手段が円柱、帆、一対のブーム及びユニバーサルジョイントを備えることは、原本の発明の詳細な説明の欄に記載され、また、添付図面を参照しての実施例の説明に示されており、従って、本体装置及び風力推進手段を上記のように限定することは、原本の特許請求の範囲に記載されていた構成事項を、原本の発明の詳細な説明の欄に記載されていた事項に又はその事項により特定するものであると共に、これによる特許請求の範囲の訂正の前後において発明の目的は同一であるから、上記訂正による特許請求の範囲の減縮は、特許請求の範囲の実質変更には該らない」(同訂正審判請求書一四頁二行ないし一五頁一〇行)から、右訂正は、「特許請求の範囲における明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とし、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない」(同訂正審判請求書一五頁一一行ないし一四行)と主張している。更に、当初の明細書の発明の詳細な説明の項の記載の訂正に関しても、「使用者を支持するようになった乗物の本体装置と、前記本体装置と旋回自在に協動して風を推進力として受け入れるようになった風力推進装置を包含する風力推進機を提供する。前記風力推進装置の位置は使用者によって制御することができ且つこのような制御を行わないとき旋回抵抗力が殆んどなくなる。」(本件公報一頁2欄一八行ないし二四行)を「本発明は、使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置を提供する。」(本件訂正公報三頁右欄一行ないし一二行)とする訂正につき、右「訂正は、本発明が提供するのは訂正後の特許請求の範囲に記載された構成による風力推進装置であるところ、原本の記載のままでは対応関係が不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よって、この訂正は特許請求の範囲の減縮と明瞭でない記載の釈明とを目的とする。」(同訂正審判請求書二一頁一〇行ないし一五行)と主張し、「波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18」(本件公報二頁3欄一九行ないし二〇行)を「使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であって円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを」(本件訂正公報三頁右欄三三行ないし四頁左欄二行)とする訂正につき、右「訂正は、訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置であるところ、その対応関係が原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よって、この訂正は特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」(同訂正審判請求書二三頁一六行ないし二四頁二行)と主張し、「取付けられている。」(本件公報二頁4欄一三行ないし一四行)の次に「前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従って、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。」(本件訂正公報四頁左欄四二行ないし同頁右欄二行)を加え、「回転可能にしている。」(本件公報二頁4欄二二行ないし二三行)の次に「前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従って、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(本件訂正公報四頁右欄一一行ないし一五行)を加えることは、「それぞれ、訂正後の特許請求の範囲に記載された風力推進装置を構成する風力推進手段の円柱がユニバーサルジョイントにより波乗り板に連結されることにより、帆が波乗り板上で起伏と回転とを自在とするが、実施例に記載の風力推進装置の構造によれば如何にして帆がそれらを自在にするかにつき理由を明らかにすべきところ、これがされていない原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よって、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」(同訂正審判請求書二五頁三行ないし一三行)と主張している。

(六)  その後、プロ事件について、昭和六〇年六月二四日、東京高等裁判所により無効審決を取り消す旨の判決がされ、同年八月一二日、請求人株式会社プロは、右無効審判請求を取り下げた。

(七)  そして、原告ウィンドサーフィンの右第二次訂正審判請求が認められて、昭和六〇年一一月二〇日、訂正審決がされた。右訂正審決によって訂正された明細書が、本件明細書である。

右認定の事実によれば、原告ウィンドサーフィンがした第一次訂正審判請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の項においては、本体装置と風力推進手段に含まれる円柱との連結手段として、「前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手」の語が用いられている。そして、発明の詳細な説明の項については、本件公報の記載と同一の記載について何らの訂正の請求もされていないから、右訂正明細書の発明の詳細な説明の項においても、「ユニバーサルジョイント」の語は、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントを意味するものを除けば、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によって乗物本体に前記推進装置が連結されている。」との記載部分だけに存在することになる。そして、発明の詳細な説明の項の右記載部分における「ユニバーサルジョイント」の語の意味する内容を検討するに、右記載部分における「三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」の内容的な関係に照らせば、通常の用語法としては、「ユニバーサルジョイント」の例示としては「三個の回転軸線を備えた接手」のみであって、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と、それ以外の「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」とが、接続詞「又は」によって並列的に結ばれているものと解するのが相当であって、結局、「ユニバーサルジョイント」以外にも「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」が存在するというべきである。右は、当初の明細書について既に述べたところ(前記7)と同様である。このことは、更に、第一次訂正審判請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の項において、前記のとおり「前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手」の語が用いられていることからも明らかである。すなわち、仮に右訂正審判請求に係る訂正明細書の発明の詳細な説明の項に用いられている「ユニバーサルジョイント」の語が、「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」をその実施例とする広い範囲の継手を意味するものであるとすれば、右訂正審判請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の記載においても、本体装置と風力推進手段に含まれる円柱との連結手段として、「ユニバーサルジョイント」の語を用いる(例えば、「前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にするユニバーサルジョイント」と記載する。)のが、むしろ当然である。しかるに、右訂正審判請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の項には、前認定のとおり、「前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手」と記載されているのであって、このことからしても、右訂正審判請求に係る訂正明細書の発明の詳細な説明の項における「ユニバーサルジョイント」の語は、特許請求の範囲の項に記載された前記「継手」と一致するものではなく、むしろ、右「継手」よりも狭い範囲の継手を意味する語であると解するのが合理的である。そして、右「ユニバーサルジョイント」については、その構成が開示されているのが、唯一、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントのみであることは、当初の明細書におけるのと同様であって、結局、当初の明細書について述べたところ(前記7)と同様、右「ユニバーサルジョイント」は、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。

そして、原告ウィンドサーフィンは、プロ事件において本件発明の特許を無効とする審決がなされた後に、第一次訂正審判請求を取り下げて、第二次訂正審判請求をしたものであるところ、右第二次訂正審判請求において、特許請求の範囲の記載を「ユニバーサルジョイント」の語を含むものに訂正し、右訂正は「明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする」ものであると主張している。当初の明細書における「ユニバーサルジョイント」の語及び第一次訂正審判請求に係る訂正明細書における「ユニバーサルジョイント」の語が、前記のとおり、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものであるから、右第二次訂正審判請求書においても、「ユニバーサルジョイント」の語は、他に特段の事情のない限り、右と同一の内容を意味するものとして理解すべきものというべきである。そして、右訂正審判請求書において、「ユニバーサルジョイント」の語について、その内容を定義した記載が新たに加えられたような事情のないことは、既に認定した事実により明らかであるから、結局、右訂正審判請求書における「ユニバーサルジョイント」の語の意味するところは、当初の明細書及び第一次訂正審判請求に係る訂正明細書におけるのと同様、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。

したがって、右第二次訂正審判請求に基づく訂正審決によって、「ユニバーサルジョイント」の語を特許請求の範囲に持ち込むことにより、風力推進手段と本体装置とを連結する手段の構造をも構成要件の一つとした本件発明は、訂正前の当初の明細書における特許請求の範囲を減縮したものであり、連結手段として、前記のような「ユニバーサルジョイント」を用いているものだけが、特許請求の範囲に含まれるというべきである。

なお、第二次訂正審判請求書における「ユニバーサルジョイント」の語の意味する内容を前記のように解すべきことは、原告ウィンドサーフィンの、右訂正審判請求書における、発明の詳細な説明の項の記載の訂正に関する主張の内容に照らしても明らかである。すなわち、前記(五)で認定のとおり、原告ウィンドサーフィンは、右訂正審判請求書において、発明の詳細な説明の項の記載の訂正に関し、「波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18」(本件公報二頁3欄一九行ないし二〇行)を「使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であって円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを」(本件訂正公報三頁右欄三三行ないし四頁左欄二行)とする訂正につき、右「訂正は、訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置であるところ、その対応関係が原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よって、この訂正は特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」と主張し、更に、「取付けられている。」(本件公報二頁4欄一三行ないし一四行)の次に「前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従って、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。」(本件訂正公報四頁左欄四二行ないし同頁右欄二行)を加え、「回転可能にしている。」(本件公報二頁4欄二二行ないし二三行)の次に「前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従って、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(本件訂正公報四頁右欄一一行ないし一五行)を加えることは、「それぞれ、訂正後の特許請求の範囲に記載された風力推進装置を構成する風力推進手段の円柱がユニバーサルジョイントにより波乗り板に連結されることにより、帆が波乗り板上で起伏と回転とを自在とするが、実施例に記載の風力推進装置の構造によれば如何にして帆がそれらを自在にするかにつき理由を明らかにすべきところ、これがされていない原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よって、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」と主張しているのである。右のとおり、「訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置である」と述べ、あるいは、「訂正後の特許請求の範囲に記載された……帆が波乗り板上で起伏と回転とを自在とするが、実施例に記載の風力推進装置の構造によれば如何にして帆がそれらを自在にするかにつき理由を明らかにすべきところ」と述べて、それぞれ、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントについての記載を付加していることからすれば、結局、原告ウィンドサーフィンは、特許請求の範囲における「ユニバーサルジョイント」の作用をもたらすべき構成の開示としては、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造がこれに該当するものとして、第二次訂正審判請求をしたものというべきである。したがって、第二次訂正審判請求書における右記載からも、右訂正審判請求書における「ユニバーサルジョイント」は三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。

9  以上によれば、被告製品は、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」を備えておらず、構成要件Cを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しないものというべきである。

五  よって、原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三村量一 裁判官 若林辰繁 裁判長裁判官 房村精一は、転官のため署名捺印することができない。裁判官 三村量一)

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